かえるせいのおうじさま
「かえるさんは、バラの嘘が許せないのかい?」
「そういう訳でもないんです、何だかそれを嘘だと思う自分がよく判っていないんじゃないか、って思うんです。」
「バラの側から考えればまた違うんだと思うんですよ。」
「なるほど、嘘は本当の嘘と嘘じゃない嘘があるよね。」
「嘘じゃない嘘?」
「最初から嘘をつこうと思って言う嘘もあれば、結果として嘘になってしまう嘘もある。」
「その時に嘘の罪の量を決めるのは観察者であって、嘘を言った人じゃない。」
「要するに、その嘘が観察者にとって不都合なほど罪が重いんですね。」
「そうそう、嘘を言った人の気持ちや込められた意味はあまり関係ないんだよね。」
「もちろん、嘘をついた人は罪の意識は無くても嘘をついたことには気づく、でも観察者、要するに嘘を聞いた側の気持ちは、自分の期待感と喪失感によって罪を大きなものと感じるよね。」
「確かに、そうなんですよね、嘘を言った人は何とも思っていない、しかし、勝手に期待をして大きな悪意を感じてしまうと悲しい思い出になってしまう。」
「なってしまう、じゃなくて、してしまう。」
「問題はここからで、この被害者意識に何の意味があるのか、ってことです。」
「ただの価値観の違い、って言ってもいいよね。」
「むしろ、その単なる価値観の違い、なんだと思うんです。」
「嘘をつく理由だって、いろいろありますよね。」
「自信が無いからついてしまう嘘や、願望が込められた嘘もある。」
「例えば、自信が無いからついてしまった嘘は追及する価値があまりない気がするんです。」
「どういうことだい?」
「察してあげて流せば十分なのかな、って思うんです。」
「悪気だったとしても、悪気じゃなかったって流した方が良いかもしれないね。」
「ある部分では、そんな嘘を言う必要があるなら一緒にいる意味が無い、とも言えますし、そういう状況で嘘を言ってしまう自分というテーマと向かい合うことが出来れば嘘を言った人にも意味がある時間とも言えるでしょう。」
「一生、全然考えないかもしれないけどね。」
「おおいにあり得ますね。しかし、その機会を与えた側だって考えます、嘘をつく人は自然に嘘をついています。」
「要するに不都合な時に嘘をつく人、と言うことです。」
「嘘をつくな、と言うのはその人間性を修正しようという試みと言えるね。」
「そう、そういうことです、それはある種の越権行為のような印象があるのです。嘘をつくな、という人間のエゴ、相手の嘘を利用したマウンティングのようなイメージさえあるのではないでしょうか。」
「なるほど、しかし、嘘をつくことが自然な人間性だ、と言われた人間の気持ちもまた複雑だよね。」
「確かに、そこにはむしろ正せる、という期待を持ってほしい人もいるでしょうね。実際に正すかどうかは別でしょうけど。」
「そして、嘘、というとらえ方自体を見つめなおすことも大切な気がするのです。」
「かえるさんはかえる星に置いてきたバラを思い出す時にどういう気持ちなの?」
「人の価値観の違いを考える、善悪の意味を考える、それにつきますね。」
「バラは地球にはいくらでもどこにでもあるよ。」
「そんなにたくさんあるものなのですか?」
「たくさんバラが生えているところに連れて行ってあげるよ。」
「たくさんのバラか。」
かえるさんはきつねさんについていきました。しばらく歩くと大きなバラの花畑につきました、辺り一面にバラがたくさん生えていました。
「ほら、数えきれないほどバラが生えているでしょ。」
「なんだか、変な気分ですね。」
「でも、ここに生えているバラは、かえるさんにはみんな同じに見えるでしょ。」
「そうですね、きれいだとは思いますが同じに見えます。」
「ぼくとかえるさんも一緒さ、初めて会ったときはただのかえると、ただのきつねだった、でも一緒に時間を過ごすうちに友達になって大切になっていくんだ。」
「…。」
「要するにそういうことなんですね。」
「人生はいつもいつも上手く行かないから面白いし、学びがあるんだよ。」
かえるせいのおうじさま 第八章 終わり
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